オランダにおいては、「教育の質の維持」と「教育の自由の実現」のバランスを、共同体の多数の構成員にとって理想的なかたちで維持するために、教育制度の内外にいくつかのメカニズムが機能している。教育監査制度は、その中の「教育の質の維持」のためのメカニズムの一つであるが、監査の方法や指標のあり方などについては、様々な見解が出されている。もし監査制度に対してオルタナティブスクールが否定的な反応を見せているとすれば、先行研究において指摘されているように、教育現場に対する行政からの干渉のベクトルが強まっており、監査自体も規制の側面を色濃く持っているということになる。反対に、監査がもたらす「標準化」の影響を一番に受ける立場にあるオルタナティブスクールが監査に肯定的な反応を示しているとすれば、オランダの教育監査制度は、方向性として規制よりも援助の側面が強いということになろう。 本研究では、上記の背景を踏まえ、オルタナティブスクールと教育監査制度の関係性を明らかにすることを目的とした。具体的には、申請者が行った初等教育段階のオルタナティブスクール10校の管理職に対して行ったインタビュー調査の成果を整理・検討することで、オルタナティブスクールの管理職が教育監査制度をどのように捉えているのか、その姿勢や考え方の一端を明らかにした。さらに、近年強化されつつあるといわれる教育監査制度や全国共通学力テストの実施などの「教育の質の維持」のためのメカニズムが、オルタナティブスクールにどのような影響をもたらしているのか、という点についても整理した。その結果、オルタナティブスクールにとって、教育監査制度は彼ら独自の実践を必ずしも阻害するものではないことが明らかになった一方で、全国共通学力テストについては、その存在を意識せざるを得ない社会的状況であることが明らかになった。
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