研究概要 |
光合成アンテナ系のような大規模なタンパク質複合体の電子状態計算を可能とするためには、電子相関を含む高精度な電子状態計算の高速化が必要である。報告者は、Yangの提案したdivide-and-conquer (DC)法に基づく高速な2次Moller-Plesset摂動(MP2)計算法2つを開発した。ひとつはDC法では得ることができない全系の分子軌道ではなく、密度行列を用いてMP2エネルギーを計算するDC-DM MP2法(J.Chem.Phys.125,204106)である。これは最近Surjanにより提案され、報告者らが実装を行ったDM-Laplace MP2法とDC法を組み合わせた手法である。もう一つは、DC法で求められる部分系の分子軌道を直接利用してMP2計算を行うDC-MP2法(論文投稿中)である。本手法では、中井によって提案されたエネルギー密度解析(EDA)を電子相関エネルギーにも拡張し、これを用いて部分系の相関エネルギーを求めている。DC-MP2法により得られるエネルギーの誤差は1kcal/mol程度と化学的精度の議論を行うことが可能である。さらに、計算コストは系の大きさNに対してほぼlinear-scalingを達成しており、従来法のN^5に比例したスケーリングから劇的に改善された。 また、アンテナ系から反応中心へのエネルギー移動を理解するためには、サイトに依存したエネルギーを見積もるのがよい。EDAは全エネルギーを構成原子に分割する手法であり、この目的に適している。そこでEDAをDC法に拡張した表式を考案し、部分系ごとのエネルギーを計算する方法を提案した(J.Comput.Chem.印刷中)。
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