研究概要 |
社会不安障害の治療については認知行動療法が有効であると報告されているが,治癒率を考慮すると未だ改善の余地があると示唆されており,認知行動療法による社会不安障害の効率化された治療法を開発することが本研究課題の目的であった。 本研究課題では,社会不安障害の維持を説明したClark&Wells(1995)による認知モデルで示唆されたpost-event processing(PEP)に焦点を当てた。PEPは,社会的場面の回顧段階であり,社会不安者の不安感情やネガティブな自己知覚が特に顕著であるとされる。PEPに対しては,主に(1)PEPと心配,反すうの異同や関連について明らかにされていない,(2)PEPに介入して,社会不安症状を低減させた研究がほとんど見当たらないといった問題点が挙げられる。 したがって,まず(1)の問題点を解決するために,Cognitive Intrusion Questionnaire改定版を用いて,PEPと反すう,心配の思考様式の異同について検討した。その結果,PEP,反すう,心配の順で過去指向的であること,PEPは反すう,心配と比較してイメージで経験されやすく,さらに,そのイメージは観察者視点のイメージとして浮かぶ傾向か高いことが示された。 次に,PEPの介入における効果検討を行った。上記研究によりPEPは観察者視点の自己イメージで経験されやすいことが示されたことから,現実的な自己イメージの呈示を用いてPEPの活性化を低減させるための介入を行い,効果検討を行った。PEPに対する介入としてビデオフィードバックと認知的対処のトレーニングを行う群,認知的対処のトレーニングのみを行う群,統制群(日記を書く)群を設け,実験内で行うスピーチ課題に対するPEPと社会不安に対する介入効果を検討した。その結果,ビデオフィードバックと認知的対処のトレーニングを行った群においてのみ,PEPと社会不安の低減が認められ,ビデオフィードバックによって現実的な自己イメージを知覚することがPEPの活性化の低減に有効であり,さらには社会不安の低減にもつながる可能性が示された。
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