研究概要 |
脊椎動物の初期発生段階において,神経組織から自発性の集合電位が記録されることが知られている.いくつかの脱分極が一定の間隔毎に発生し神経組織全体へ波のように伝播する.このことから本研究者と同じ研究グループではこの集合電位を脱分極波と呼んでいる.本研究者と同じ研究グループにより,ニワトリ胚における脱分極波は最初に閂付近を起点に発生し,発生が進むにしたがって延髄から広く脊髄に及ぶ複数の部位を起点に発生するようになることがわかった.そこで,起点が閂付近に決まる仕組みを探るための実験を行った.ニワトリ胚初期発生期に菱脳節を含む神経管を部分的に取り除くことで,脳領域を小さなセグメントに分断したサンプルを作成した.これらの各セグメントから発生する自発活動を記録し,その発生リズムの違いを解析した.その結果,各セグメントは全て自発活動電位を生じていたが,そのリズムパターンがそれぞれに異なっていた.孵卵開始後7日目においては,一定間隔毎に発生する脱分極(episode)の回数が延髄の吻側で最も少なく,将来の閂付近にあたる延髄の尾端で最も多く観察された.この自発活動性の勾配は,7日目において脱分極波の起点となる確率の勾配とよく似ていた.これらの結果により,脱分極をより多く繰り返す部位が脱分極波の起点となることが示唆された.今後は,異なる発生段階での各セグメントの自発活動性を調べることで,発生が進むにしたがって延髄から広く脊髄に及ぶ複数の部位を起点に脱分極波が発生するようになる機構について解析していく予定である.
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