「繊毛虫における有性生殖開始の分子メカニズムの解明」を目的として、二種類の接合型と接合誘導物質(ガモン)から成る接合システムをもつ繊毛虫ブレファリズマを用いて以下の研究を行った。 糖タンパク質である接合誘導物質ガモン1の糖鎖の機能を解析するため、N-結合型糖鎖切断酵素で処理し糖鎖の接合誘導活性への影響を調べた。その結果、酵素処理されたガモン1は接合誘導活性を示さない傾向がみられた。今後、さらに糖鎖の機能について検討する。 接合型特異的な遺伝子発現を制御している因子や機構を探るため、ガモン1同様に接合型特異的に発現する遺伝子を探索した結果、主にI型細胞の接合時に発現する171アミノ酸から成る新たな遺伝子を同定した。それはガモン1遺伝子の3'下流に近接して位置していることがわかった。 ガモン及びガモン受容体の局在を探るため、大阪市立大学飯尾教授と共同し、ピレン標識ガモン2を合成してガモン2受容体の局在観察を試みた。ピレン標識ガモン2は強い接合阻害活性をもち、蛍光顕微鏡観察の結果、口部器官付近に弱いシグナルが見られた。現在、このシグナルが有意かどうかを検討中である。また、ガモン1のペプチド抗体を新たに作製した。 ブレファリズマ属内における有性生殖及び接合誘導物質の多様性を探るため、ブレファリズマ属の他種におけるガモン1の相同遺伝子の検出・単離を行った。その結果、B.stolteiにおいてかなり保存されたガモン1相同遺伝子の存在が明らかとなった。 ガモンを含む接合関連遺伝子の転写調節機構の解明や機能解析を行うために必要な実験系の構築に向けて、繊毛虫における最先端の接合研究に触れ、分子生物学的手法を学ぶために台北の中央研究院分子生物学研究所にて研究を行った。繊毛虫テトラヒメナを用いて、接合過程で特異的な発現を示すKu相同遺伝子のノックアウト株を作製し、その機能解析を行った。
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