ナシやリンゴの自家不和合性は、自家結実を阻害するので果樹生産上問題となっており、その分子機構を解明することは、植物の生殖機構を理解し、結実管理へ応用する上で重要である。ニホンナシの自家不和合性は、雌しべ側S遺伝子と花粉側S遺伝子の組であるSハプロタイプに制御される。雌しべ側S遺伝子としてS-RNaseが同定されているが、花粉側S遺伝子はまだ同定されていない。これまでに、雌しべ側の自家和合性変異体'おさ二十世紀'(S2S4sm)由来のS4smハプロタイプの解析から、花粉側S4遺伝子はS4-RNaseの上流48kb以上あるいは下流188kb以上離れた位置に存在することを明らかにしている。 花粉側S4遺伝子を同定するため、S4-RNase周辺のBACコンティグを構築し、欠失領域外の塩基配列を解析したところ、S-RNase型の自家不和合性を示す他の植物の花粉側S遺伝子(SLF/SFB)と相同性を示す5つのF-boxタンパク質遺伝子が見出された。これらはいずれも花粉で特異的に発現していたことから、ニホンナシの花粉側S遺伝子の有力な候補と考えられた。また、5つのF-boxタンパク質遺伝子からSハプロタイプ間で多型を持つ花粉側S遺伝子を絞り込むため、'長十郎'からBACライブラリーを作製し、S2-RNaseの上流255kbから下流275kb以上、S3-RNaseの上流214kbから下流297kb以上をカバーするBACコンティグを構築した。
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