復数のパートナータンパク質と結合して細胞質に存在するアリール炭化水素受容体(以下、受容体はAhR、タンパク質との複合体はAhRcと略す)は、芳香族炭化水素が結合するとパートナータンパク質が解離し核へ移行する。さらに、Arntタンパク質と2量体を形成することで転写因子として働き、細胞内の代謝をかく乱する。本研究では、植物性食品成分がAhR形質転換を抑制することに着目し、その作用メカニズムならびに生体内での有効性について検討した。 (1)細胞内における、芳香族炭化水素が誘導するAhRシグナル経路に対してフラボノイドがどのような効果を示すか検討した。フラボノイドのサブクラスのうち、フラボン、フラボノールに属する化合物はAhRの核移行を抑制すると共にAhRcの解離を抑制した。一方、ブラバノンあるいはカテキンに属する化合物に関しては、これらの抑制効果を示さず、Arntとの2量体形成が抑制された。これらの事から、フラボノイドのサブクラスごとにAhRの転写因子としての働きを抑制する機構が異なることが明らかとなった。 (2)フラボノイドがAhRの形質転換を抑制するとき、ターゲット細胞に取り込まれているか否か検討した。フラボノイドはABCトランスポーターを介して細胞外へ排出されることが報告されている。トランスポーターの阻害剤を作用させた細胞を用いてフラボノイドのAhR形質転換抑制効果を検討したところ、フラボンとフラボノールに関して効果が高まる結果が得られた。また、自家蛍光を有するフラボノールを作用させた細胞を蛍光顕微鏡で観察することで、細胞内に化合物由来の蛍光を確認した。これらの事から、ある種のフラボノイドは細胞内へ取り込まれることで効果を発揮している可能性が示唆された。
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