研究概要 |
光電子・解離イオン同時計測に基づく、分子座標系での光電子角度分布(MF-PAD)測定は内殻電子イオン化ダイナミクスを第一原理から解明する有力な手法として普及しており、本研究ではMF-PAD測定の新たな展開を目指し、新しい研究分野の開拓を目的としている。とくに、内殻イオン化に伴う高速な化学結合解離・原子再配置、原子間共鳴オージェ電子放出、および非直線分子や希ガスクラスターの内殻イオン化過程などのダイナミクスの詳細をMF-PADから明かにする。平成18年度は、主に原子間共鳴オージェ過程と非直線分子の内殻イオン化過程に関して研究を進めてきた。まず、計測効率の向上を図るためにより高性能なアンプ/ディスクリミネータを既存の装置に導入するとともに、これまでより高エネルギーの光電子を検出するための電子レンズ系を決定し、測定条件を整えた。OCS, CS_2のS2p光電子について隣接炭素のC1s→π^*吸収の影響を調べた結果、π^*励起状態におけるRenner-Teller効果により分子構造が屈曲する影響がMF-PADに強く現れやすいことを見出した。そこで、より単純なNO分子のN1s光電子放出について、隣接酸素原子のO1s→π^*共鳴吸収領域でのMF-PAD測定を行い、原子間共鳴オージェ過程による強度増大の効果を捉えることに成功した。観測された共鳴オージェの効果は、直接イオン化との干渉を通して現れるものとして解釈でき、MF-PADに及ぼす原子間共鳴オージェ効果を初めて示すことができた。また、この成果は固体における多原子共鳴光電子放出過程に対しても基礎的な理解を与えるものであり、固体物性の理論グループとの共同研究も開始した。一方で、非直線分子のMF-PAD測定も行いH_2OおよびSO_2分子に関して実験データを収集するとともに、解析プログラムの改良も同時に進行させた。
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