ヨツボシモンシデムシの成虫は、幼虫の餌である小動物の死体(資源)の大きさに合わせて、幼虫数を調節し次世代成虫の大きさを一定に保つ。一方、資源の獲得競争では、大きな成虫が勝つが、野外で小さな資源で繁殖させると、幼虫数を調節しても資源を獲得できそうにない程小さな次世代成虫が多数見られた。これは行動学における最適な資源分配の理論に当てはまらない興味深い現象である。また、それに関わる要因として、幼虫数が少ないと摂食効率が低下するという結果を得た。本年度はこの現象を、野外において幼虫数を操作することで詳しく調べ、さらに理論による説明を試みた。 野外で大きさ一定のマウス死体を用い、繁殖実験を行った。幼虫の孵化後2-3日に、繁殖ペアから他のペアに幼虫を5頭移し、幼虫数の減少や増加が、摂食効率に影響があるか調べた。すると、終齢になった幼虫数は減少区より増加区のほうが多かったが、減少区と増加区の差は、操作した数より小さかった。これは、操作による撹乱や、親成虫の幼虫数調節のしくみによって増加区の幼虫数が減少したからだと思われる。また、摂食効率は、減少区より増加区のほうが高かったが有意差は無かった。今後、操作の方法やタイミングを改善する必要がある。また、この摂食効率の変動を取り入れた資源分配問題の理論的なモデルについて、去年度のモデルより妥当性の高い新たなモデルを考えた。その結果、資源量依存的に変化する次世代サイズを定量的にうまく予想出来たが、次世代数については理論値が実際の値より高くなり、今後改善の余地がある。 幼虫数調節機構の生理的なしくみについて、内分泌的な実験は行わなかった。一方で、撹乱せずに小型CCDカメラで育児行動を記録するシステムを構築した。今後、これによって、幼虫数調節の時期や、どの幼虫を間引くのか、またどの幼虫に給餌するのか、といった詳細な実験を行える。
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