研究概要 |
本年度は,昨年度までの細胞分離装置のさらなる応用(口腔粘膜上皮細胞,角膜輪部上皮細胞などのソーティング)に加え,ミリ秒程度の非常に短い時間,薬理活性をもつ試薬等によって細胞を処理することのできるマイクロ流体システムの開発を行った。具体的には,これまでに細胞ソーティングのために開発を行ってきた手法である「水力学的フィルトレーション」を利用することで,ある一定の大きさをもつ細胞がマイクロ流路の中を連続的に流れる際に,細胞のキャリアとなる溶液を流路の途中で2回交換することのできる,つまり,細胞は3種類の溶液の流れを順に通過して回収される,流路ネットワークの開発を行った。このシステムでは,流路のサイズあるいは流速を変化させることで,細胞の処理時間を1ミリ秒〜1秒程度の任意の時間に調節することができる。実験では,PDMS-ガラスのハイブリッド型マイクロ流体デバイスを作製し,非接触測定装置を用いて,流路の形状評価と流動抵抗の計算を行った。また,実際の応用例として,Hela細胞を用い,界面活性剤(Triton X)のもつ急性細胞毒性の評価を行ったところ,界面活性剤の濃度が0.1%程度の場合,処理時間が40ミリ秒より長くなると,細胞の生存率が急激に減少することが分かった。通常,細胞をミリ秒程度の短時間処理し,さらに反応を停止するためには,急速凍結バイアルとフローセルを組み合わせた非常に複雑な装置が必要となるが,本研究で提案したシステムは,外部からの制御装置を必要とせず連続的かつ簡便に細胞処理が可能になるため,分子生物学や構造生物学などの研究分野における有用なツールとなることが期待される。
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