前年度、観察研究に基づく因果分析においてよく用いられる線形逐次モデルが、データの非正規性を利用することによって一意に識別されることを示した。これは、陰に陽に正規分布の仮定に基づく従来法では不可能なことであった。本年度は、この結果を基礎にして、より多様な(因果)モデルの探索が可能になるように、いくつかの拡張を試みた。社会科学への適用を念頭において、次のような拡張に取り組んだ:(1)異質な母集団の混合への対処、(2)未観測交絡変数への対処、(3)潜在変数間の線形逐次モデルの探索である。 (1)データの分布が、異質な母集団の混合である場合に、どのように各母集団の因果構造を推定するかについて議論した。例えば、消費者の多様性を考慮したターゲット・マーケティングに応用できる可能性がある。 (2)未観測交絡変数が存在する場合への拡張を議論した(前年度の国際会議プロシーディングズを発展させた)。観察データに基づく因果分析においては、未観測交絡変数の存在が分析結果を大きくゆがめてしまうことが指摘されている。非正規性の積極的な利用は、このような分析の難しいケースにも、従来法よりも多くの情報を引き出せることがわかった。また、数値実験により、提案手法のパフォーマンスを検証した。 (3)潜在変数間の因果モデルの探索方法についても論文を執筆し、現在投稿中である。この方法は、直接観測することのできない心理量を扱うことの多い社会科学では、特に有用だろう。
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