オスマン帝国の起源伝承研究の成果として、今年度は国内外で合計四回の口頭発表を行った。その内容は、大きく次の三点に分けられる。 (1)セルジューク朝とオスマン朝の関係:オスマン朝の史書において、先行王朝としてセルジューク朝が重要な位置を占める。両王朝は、史実としての関係が殆ど認められないにもかかわらず、言説上では直接的な血縁関係などが主張され、オスマン王家の正当性確保に大きな役割を果たした。 (2)オスマン朝王統譜の生成過程:オスマン王家は、「ノアの箱船」のノアの時代から続く伝説的な系譜を持つ。本研究では、旧約聖書、イスラーム伝承などの様々な系譜情報が取り込まれつつ、王統譜が練り上げられてゆく過程を明らかにした。 (3)オグズ伝承における「正統」問題:テュルク族の伝説的王であるオグズ・ハンの後を継ぐ存在として、オスマン朝の出身部族であるカユ氏族が「正統」に定められてゆくロジックを、オスマン朝以外の史料も網羅的に参照しつつ検討した。 以上の研究は何れもオリジナルな内容である。口頭発表に当たっては、有益な意見・批判を受けることができた。来年度は、これら口頭発表の内容を雑誌論文の形で発表していく予定である。 なお、本年度掲載の論文"The Official Historiographers in the Ottoman Empire : the Formation Process and Their Ideas"は、内容的には前年度の研究課題(オスマン朝修史官制度の研究)の成果である。投稿は平成17年度であったが、掲載は今年度となった。
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