本年度は2006年度、2007年度に引き続き、研究課題「オスマン帝国における歴史意識-建国神話に見られる「起源」の記憶の創造と変容」に取り組んだ。本年度は、昨年度から準備していた論考も含め、「古典期オスマン朝史書に見えるセルジューク朝との系譜意識」ほか五本の論文を発表することとなった。本年度は特別研究員としての最終年度であり、これらの論文によって、研究課題に関する成果を出すことができたのではないかと考える。 国内での口頭発表としては、2008年5月に開催された日本中東学会第24回年次大会において、「オスマン朝におけるモンゴル観-15・16世紀を中心に」という題目で報告を行った。 本年度、海外における史料調査は二度行った。まず、2008年8月から9月にかけ、トルコ共和国とイタリアにおいて調査を行った。トルコ共和国では、スレイマニエ図書館、バヤズィト図書館、ミッレト図書館、イスラーム研究所において、写本史料、刊行史料および新聞史料の複写を入手した。またイタリアでは、ボローニャのボローニャ大学を中心として、幾つかの図書館においてオスマン・トルコ語の写本資料を調査した。イタリアは、イギリス、フランス、ドイツ、オーストリアなど(いずれも調査済み)の東洋学の中心地よりは所蔵史料の点数は多いが、それでも少なくない数の貴重な写本が存在している。本調査では、残念ながらローマのヴァチカン図書館(閉館中)を利用できなかったのは残念だったが、他日を期すこととしたい。トルコとイタリアに加え、クロアチアのザグレブ大学で開催された、第18回前オスマン期・オスマン期に関する国際会議(CIEPO)に参加し、英語で研究報告を行っている。また2009年2月には、短期ながらトルコ共和国イスタンブルと首都アンカラにおいても史料調査を行った。アンカラでは、トルコ歴史協会図書館と国民図書館を利用し、イスタンブルでは入手できない史料を収集した。
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