本研究は、木材成分由来の誘導体を用いて遺跡より発見される木製遺物(出土木材)を強化することで、軽量でありながら剛性が高くなる保存処理方法を開発することを目的とする。これまで、リグノフェノール処理では、リグノフェノールを含浸する工程(含浸工程)と真空凍結乾燥(乾燥工程)の2工程で行ってきたが、本年度は、乾燥工程に、超臨界二酸化炭素(臨界点31.1℃、7.38MPa)を用いた乾燥法を検討した。超臨界乾燥は、均相系での乾燥が可能となることから、真空凍結乾燥を用いる場合よりも寸法変化の軽減が期待できる。一方で、これまでの研究から、強化剤にステアリン酸やマンニトールを用いた場合、超臨界乾燥後の強化剤の試料内残存率が低くなってしまうため、残存率が高くなるような強化剤が必要とされてきた。実験には、最大含水率500%の出土地不明のサクラ材(Rosaceae Prunus)を使用した。また、リグノフェノールは、機能性木質新素材技術研究組合から提供された粗リグノ-p-クレゾールを精製したものを使用した。リグノフェノールの含浸濃度は20%(重量比)とし、含浸溶媒にエタノールを用いた場合は超臨界乾燥し、t-ブタノールを用いた場合は真空凍結乾燥を行った。 結果、超臨界乾燥を用いた場合の収縮率は1%以下であり、真空凍結乾燥を用いた場合(5%以下)よりも大きく軽減した。さらに、超臨界乾燥を用いた場合のリグノフェノールは残存率は90%以上あり、従来用いられる薬剤の残存率60%と比較して大きく向上した。
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