研究概要 |
平成18年度研究実施計画に従い,人間の聴覚特性に基づいたインパルス応答評価について研究を進めた. 1)群遅延操作による音の違いの検知限について 同一の振幅周波数特性を持ち群遅延(位相)特性のみが異なるインパルス応答を人工的に生成し,人間が知覚できない群遅延特性の変化量を求めることを目的とした主観評価を行った.パルス列を用いた実験の結果,人間が検知可能な群遅延特性の変化量は全ての帯域で均一ではなく,変化させる周波数帯域により異なることが明らかとなった.具体的には,4000Hz〜8000Hzの高域では±0.5〜1.0msの変化を検知することができるが,1000Hz〜2000Hzでは,±1.2〜2.0ms変化させないと違いを検知することが出来ず,それ以下の帯域では群遅延変化量に関わらず検知できないことが示された.また,低域では群遅延変化量の符号により検知限が異なり,主応答となるパルスより手前の時刻に応答が現れる場合では,群遅延変化量が同一でも主応答となるパルスの後に応答が表れる場合より検知が容易となることが示された. 2)クロススペクトル法を用いたインパルス応答推定の誤差評価 クロススペクトル法を用いて推定したインパルス応答に含まれる誤差の評価を行った.クロススペクトル法では時間窓を用いてインパルス応答推定を行うが,用いる時間窓により含まれる誤差が異なる.ここでは,インパルス応答推定に用いる信号を音声とした場合に推定誤差の少なくなる時間窓を検討した.その結果,測定用信号のダイナミックレンジに応じて推定誤差の少ない時間窓は異なり,振幅周波数特性の狭い帯域におけるダイナミックレンジが30dB以下ならばリース窓,音声のように大きなダイナミックレンジを持つ信号では,ハニング窓・ブラックマン窓の推定誤差が他の時間窓より少なくなることが示された.
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