本年度は、2回の渡米による野外調査・野外操作実験と、日本における化学分析、共同研究者との遺伝子分析により、植物の誘導性揮発性物質を介した植物間コミュニケーションについて、研究を大きく前進させた。 1)個体ごとに放出する匂いが異なることに注目し、個体が自己からの情報と他己からの情報とを区別していることを明らかにした。この知見は植物の自己認識能力の高さを示しており、植物生理学的にも生態学・進化生態学的にも興味深い発見である。 2)北大の学生と協力して、マイクロサテライトをもちいて、遺伝的類似度を調べた。その結果、植物が放出する揮発性物質(匂い)の類似度と遺伝的類似度に相関があることがあきらかになった。この結果は、先の自己認識能力に関する研究を進めていくうえで重要である。 3)隣接する植物の誘導反応を引き起こす匂いの持続性を野外で調べた結果、3日目まで匂いが放出されていることを明らかにした。今後、匂い分析により物質か重要かを特定する予定である。 4)誘導反応により、葉の質がどのように変化するのかを明らかにするにあたって、どの化学分析が可能か、また技術を習得した。分析はC/N比、総フェノール量、タンニン量、ジャスモン酸量の測定をした。今年度はそれらを用いて実験するつもりである。 5)若い個体が全体の25%の被害を受けた場合に、過剰補償作用を示すことを明らかにした。今後、この理由を生態学的観点から明らかにしたい。
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