研究課題
視覚的意識をもたらす注意機能には時間的な処理制約があるため、中心窩に投影された視覚刺激であっても見落とされることがある。これを実験的に示したのが注意の瞬き(AB)である。ABは、高速逐次視覚呈示を行うと、先行標的(T1)から約500 ms以内に呈示される後続標的(T2)の見えが阻害されるという現象で、ABに関わる脳内機序を明らかにすることは、意識の形成過程の理解に重要なヒントを提供すると考えられる。特に、後部頭頂葉の頭頂間溝(IPS)はトップダウン、下頭頂小葉(IPL)はボトムアップの視覚処理にそれぞれ関わると考えられている。もしこの仮説が正しければ、T1処理中にIPS活動を妨害すると、T1処理が中断されるためT2処理への干渉が低下してT2成績が向上すると予測できる。また、AB期間中に呈示されたT2の処理中にIPL活動を妨害すると、T2による注意の捕捉が干渉を受けるため、T2成績が一段と低下することが予測できる。この仮説は、限られた領域の神経活動を瞬間的に攪乱させる経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いることで検証可能である。そこで、右半球のIPSやIPLに、T1あるいはT2呈示後にTMSを施行し、ABへの影響を観察した。実験の結果、T1オンセット後75〜225msの間に右IPSに3連発のTMSを施行するとABが小さくなる一方、T2オンセット後に右IPLに同様のTMSを施行すると、ABの増大が認められ、IPSによるトップダウンT1処理とIPLによるボトムアップT2処理がABに関与するという仮説と一致した。これは、T1処理そのものではなく、T1処理によって誘発される注意の一時的な機能不全や妨害刺激の抑制、あるいは注意の再定位の遅延がABの原因であるとする、最近提唱されたABモデルの枠組みと一致する。
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Japanese Psychological Research 51
ページ: 1-11
Journal of Experimental Psychology:Human Perception and Performance 33
ページ: 1495-1503