研究概要 |
18年度の研究内容は,以下の通りである. 1,スピノザの目的概念および感情理論の研究 スピノザのテキストおよび関連文献をもとに,スピノザの思想における目的論的説明の位置づけを考察し,次の結論を得た.(1)スピノザの行為論は,目的論的法則と呼びうる一定の目的論的説明によって構成されていること.(2)この目的論的法則の根拠が,力および存在というスピノザの形而上学的概念に根ざすこと.(3)この目的論的説明は,一般に目的論的説明として理解されている「目的原因論」とは性格を異にすること.(4)スピノザにとって,「目的原因論」は個人の感情から生じる臆見であって,それゆえ批判されなければならないこと.これらの研究成果は,2006年5月の日本哲学学会にて発表された. 2,生物学的機能および目的概念の研究 生物学および生物学の哲学における機能言明の認識論的な性格を考察した.まず2006年9月発表の論文では,生物学における機能説明をサーベイした.ここでは,機能言明には起源論的機能,傾向性的機能,因果役割機能という三つの解釈があり,それらが進化生物学,生態学,生理学といった異なった生物学的領域で果たす役割を明らかにした.2006年10月の日本科学哲学学会での発表では,それを基に,とりわけ起源論的機能と因果役割機能の関係を考察した.両機能は,ダーウィン主義+還元主義という現在の生物学の二つの説明戦略を具現した説明概念である.これらは歴史(的由来)と生理メカニズムという,生物の理解にとって欠かせない二つの生物学的側面を良く捉えている.しかしながら,複雑系生物学に代表されるように,そのような還元主義的な見方では救えないような生物学的特徴や探求戦略が存在する可能性も,あわせて示唆した.
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