研究概要 |
視覚的意識のあり方を知るには,逆に,視対象が意識から消失する状況を特定し,その原因を明らかにすることが効果的である.本研究では,視対象が意識から消失する現象として「オブジェクト置き換えマスキング」と「注意の瞬き」を取り上げた. オブジェクト置き換えマスキングの脳内機序を調べた研究では,視覚運動処理に重要なV5/MT+あるいはV5/MT+と相互投射を有するV1に低頻度の反復経頭蓋磁気刺激を施行し,その機能を一時的に抑制すると,マスキングからの回復が生じることを明らかにした.この成果は日本心理学会で発表し,国際誌に投稿し,現在査読中である.また,これに関連して,V5/MT+に対して低頻度の反復経頭蓋磁気刺激を施行すると,ロングレンジ仮現運動の知覚が低下することを明らかにした.この成果は日本基礎心理学会で発表し,国際誌に投稿し,査読を経て改稿ののち,再投稿中である. オブジェクト置き換えマスキングの生起段階を調べた研究では,イメージレベルの効果を統制したうえで主観的輪郭から構成される主観的図形をマスク刺激として用いる新たな手法により,主観的図形がターゲット刺激の近傍にその消失後も残存するとマスキングを生じることを明らかにした.この成果は日本基礎心理学会およびPsychonomic Society annual meetingで発表し,国際誌への投稿準備中である. 注意の瞬きの脳内機序を調べた研究では,一つ目のターゲット刺激の処理に従事していると想定されるタイミングで左半球あるいは右半球の頭頂間溝に対して単発の経頭蓋磁気刺激を施行すると,注意の瞬きからの回復(すなわち二つ目のターゲット刺激の視認性向上)が生じることを明らかにした. この成果は日本認知心理学会およびannual OPAM meetingで発表し,Experimental Brain Research誌に掲載された.
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