研究概要 |
都市化に伴う緑地の孤立・分断化は,そこに生育・生息する生物相に大きく影響することが知られている。しかし,緑地の孤立・分断化が蘚苔類に与える影響については,一部の指標種に関する研究や個別の知見はあるが,体系的な研究に乏しい。そこで博士論文を含む一連の研究では,京都市内にある孤立緑地を調査地として,マクロ・メソ・ミクロの3つの階層的なスケールから蘚苔類生育分布と景観生態学的諸要因とを関連付け,都市緑地における蘚苔類多様性保全区の設定,整備・管理の指針を提案することを目的とした。複数の多変量解析手法を用いて調査地の蘚苔類フロラと生育環境との関係について検討した結果,まず,マクロスケールにおける研究からは,蘚苔類多様性を維持するためには,適度に間伐・伐採された平坦な大面積の緑地と,間伐・伐採されていない斜面の発達した大面積の緑地の確保が重要であることが明らかとなった。次に,メソスケールにおける研究からは,蘚苔類種多様性を高める緑地の整備や管理の指針として,まとまった面積の岩場の整備,石垣・排水路などの人工構造物の配置,蘚苔類への照度を保証する細やかな日常管理(落葉清掃・除草),および踏圧からの保護が示され,ミクロスケールにおける研究からは,胞子・無性芽の定着環境整備の有効性が示唆された。終わりに,以上で考案した階層的な蘚苔類生育モデルと蘚苔類フロラ調査結果に基づいて,蘚苔類生育型や緑地面積,比高などを手がかりとした複数の蘚苔類多様性保全区設定手法の効果を比較・検討した。蘚苔類生育分布と環境要因との関係を定量的に明らかにし,これまでにない階層的な蘚苔類生育モデルに基づいた蘚苔類多様性保全区の設定手法を提案した一連の本研究成果は,都市緑地における蘚苔類の生育実態の把握や保全効果の上昇に貢献することが期待される。
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