前年度に行った野外調査の結果から、ブナの粗大枯死材に優占していることが分かった大型菌類および微小菌類の分離菌株を用い、純粋培養下における材分解試験を行い、各菌類の材分解力を比較した。試験には、大型菌類の菌株17種17菌株、微小菌類の菌株13種13菌株を用いた。分解基質として、未分解の新鮮なブナ材の木紛と、あらかじめ白色腐朽菌による分解を受けたブナ枯死材の木紛を用いた。これらの木紛の含水率を3段階に設定したものを試験管に詰め、滅菌した後、各菌類を接種し、20℃暗黒下で6ヶ月間培養した後の木紛の重量減少率、有機物組成を測定した。 結果、あらかじめ白色腐朽菌による分解を受けたブナ枯死材の木紛に対する分解力において、特に含水率の高い条件で微小菌類の材分解力が大型菌類の材分解力を上回る事が示された。通常、未分解の木材に対する分解力は、微小菌類に対して大型菌類の方が大きい事が知られている事から、本研究の結果は非常に興味深い。有機物分析の結果、あらかじめ白色腐朽菌による分解を受けた木紛では、未分解の木紛に比べ微小菌類によるホロセルロース分解が促進された事が分かった。つまり、白色腐朽をうけた木紛では、リグニンによるホロセルロースのガードがはずされているために、リグニンを分解できない微小菌類でも、ホロセルロースが分解できるようになっていることが示唆された。以上の結果、および前年度の野外調査結果をまとめ、「冷温帯天然林におけるブナ粗大枯死材の分解に関わる菌類群集の動態と機能」という題目で学位論文を作成した。これに対し、京都大学より2008年3月24日、博士(農学)の学位が授与された。
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