大気中の光散乱を考える上で最も重要なものは窒素、酸素によるRayleigh散乱である。本研究ではまず両物質の散乱断面積について理論・実験の両面から研究を行った。原理的には散乱断面積の大きさを決めているのは電子のエネルギー準位の構造である。窒素、酸素はよく似た物質でありながら低エネルギーのエネルギー準位は大きく異なる。これは電子遷移の選択則などから基底状態がシングレットかトリプレットの状態にあることに由来することが分かった。さらにそれぞれの物質のエネルギー準位のどの遷移が散乱断面積に大きく寄与しているかの解析を行った。その結果、両物質ともイオン化エネルギーよりも高エネルギーの遷移が大きな寄与を持っており、低エネルギーの遷移による寄与は小さいことがわかった。この結果は両物質の低エネルギーのエネルギー準位の構造は大きく異なるが、高エネルギーの構造はよく似ていること、また先行研究により両物質がほぼ同じ大きさの散乱断面積を持つことと整合的である。両物質の散乱断面積がほぼ同じであることを実験的に確かめるために本研究では屈折率を干渉計を用いて測定した。屈折率は散乱断面積の対角成分に対応しており、厳密には屈折率から散乱断面積を計算することはできない。しかし窒素と酸素の屈折率の違いを議論するうえでは無視できる大きさである。本実験により両物質がほぼ同じ(窒素の方が若干大きい)散乱断面積を持つことが確認された。 大気中の散乱を考えるとき次に重要になるのは分子よりも大きなエアロゾルである。エアロゾルは分子と違い、その大きさや組成により散乱断面積が変化することに加え、場所や時間により浮遊量も異なる。そこでエアロゾルの大気中での動態を現実大気のデータ解析とより大きなスケールの大気の流れを解析することにより調べた。それにより日中の混合層の発達による混合によりその濃度が大きく変化することが分かった。
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