研究概要 |
今年度の研究成果は大きく2点に分けることができる。一点は、現実に名目金利の非負制約に直面した日本経済についての実証研究。二点目は、マクロ経済が晒されている不確実性の変化が最適な金融政策ルールにどのような影響を与えるかという問題に対する理論研究である。日本経済についての実証研究については、大阪大学経済学部、日本学術振興会特別研究員PDの山田克宣氏と共同で、Mcgrattan and Prescott(2005,Review of Economics Studies,以下MPと呼ぶ)の研究を日本に適用したものである。MPにおいて、彼女らはIntangible Capitalの概念を導入することによって米国と英国の投資と利潤の関係を整合的に説明できることを明らかにした。一方、我々は論文Arato and Yamada, "On the Applicability of Mcgrattan and Prescott Model to the Japanese Economy ; A Comment"において、MPのモデルは日本経済のIntangible Capitalと投資、利潤の関係を必ずしもうまく説明できないことを実証的に示した。この研究は、米国や英国にはない日本特有の経済的要因、が背景に存在することを示唆しており、名目金利の非負制約との関連が今後の課題となる。 一方、マクロ経済の不確実性と最適な金融政策ルールについての研究については、Jones, Manuelli, Siu, Stacchetti(2005,Review of Economic Dynamics)の内生的成長モデルにCalvo(1983,Journal of Monetary Economics)型の価格の硬直性を導入することによって、マクロ経済に与える確率的ショックの分散の増大がモデルの動学に影響を与える新しいNew Keynesianモデルを構築した。これにより、将来の不確実性の変化に対する金融政策の効果を数量的に明らかにすることが可能になると期待される。この研究は平成19年度に国際学術誌に投稿予定である。
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