すざく衛星を用いて、天の川銀河中心から約1度離れた、Sgr B領域近傍にある明るいX線星を観測した。XIS検出器で得られたスペクトルを解析し、この天体から等価幅が1 keVにもおよぶ非常に強い高階電離鉄(Fe24+)のKα輝線を検出した。スペクトル全体はNH=2×1023cm-2の吸収を受けた、温度4keVのプラズマモデルによってよく再現された。公開されているXMM-Newtonの観測データもこの結果に矛盾しないものだった。さらにこの天体の赤外線観測によるデータを精査したところ、Vバンドで31 magの減光を受けた、103KのSEDをもつことが分かった。このSEDは銀河中心付近にあるクインタプレット星団のメンバーのものと非常によく似ている。X線光度は3×1034 erg s-1、赤外光度は3×1039 erg s-1であった。これらの解析結果はこの天体の正体が炭素が豊富なWolf-Rayet星(WC星)と大質量星の連星系であることを強く示唆する。WC星は太陽の60倍程度以上の質量を持つ、若い(誕生から600万年未満)が、強力な星風を持つ死ぬ間際の極限的な星である。特殊な超新星爆発の前駆星としても注目されている。これまで銀河中心領域にある点源で6.7keV輝線を持つものの多くは激変星であると考えられてきた。この天体は1つで銀河中心領域の鉄輝線の0.4%を説明する。激変星の古い天体ではなく、このような若い天体の寄与も無視できない可能性を指摘した。
|