申請書作成時に報告した手法により豚の胃より精製したH/K-ATPaseをn-Octyl-β-D-glucosideの界面活性剤を用いて可溶化後、透析法により二次元結晶を作製し、負染色条件において電子顕微鏡解析を行った結果、リガンド非結合型(E1)とアルミニウムフロライド-ADP結合型(E1P-ADP)で異なるプロジェクションを与えた。さらにトリプシンの限定分解をおこなったところ、それぞれの条件において異なる分解パターンを示したことから、各結晶のプロジェクションの変化は構造変化を反映していることが支持され、Ca-ATPaseの構造解析から明らかになっているように阻害剤などのリガンド結合に伴いH/K-ATPaseは細胞質可溶性A、N、Pドメインが大きく構造変化をしていることが類推された。また、二次元結晶化条件の最適化を進める過程においては、n-Octyl-β-D-glucosideとは異なる界面活性剤により可溶化した標品を用いてスクリーニングを行った結果、DMPCなどの外来の脂質を適量添加することで、比較的安定で結晶性の優れた二次元結晶を作製することに成功した。また、この結晶化条件においては解析に有利な単層の結晶もこれまでより高頻度で得ることができたため、極低温電子顕微鏡によるデータ収集を進めている。極低温電子顕微鏡における観察試料作製の検討においてはトレハロースを用いた試料包埋剤が結晶の保護に効果があることがわかり、さらに細かい条件を検討中である。現在、トリプシンによる限定分解後のペプチド断片のN末配列解析を行うことで、トリプシンによる切断部位を特定すると同時に、極低温電子顕微鏡による解析結果を組み合わせることでリガンド結合による構造変化を議論することを目指している。
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