研究概要 |
我々は、強磁性細線における磁壁の電流駆動実験を行ってきた。これまで磁壁電流駆動に用いられてきた代表的な強磁性材料としては、NiとFeの合金であるパーマロイ(Py)であった。この材料の特色としては、基板面内に磁化を持つことである。本研究では、新規材料での磁壁電流駆動現象の観測を目的とし、基板垂直方向に磁気異方性を有するCo_<54>Cr_9Pt_<37>合金中の磁壁を電流によって駆動したという報告をする。 Si基板上にスパッタ法で作製したTa(5nm)/Ru(2nm)/Co_<54>Cr_9Pt_<37>(8nm)/Pt(2nm)垂直磁化膜を電子線リソグラフィーとイオンミリング法によって加工し、細線幅280nmを持つ試料を作製した。Co_<54>Cr_9Pt_<37>細線の一部をイオンミリングすることで6nm,8nmの2種類の厚みを有する。基板垂直方向に+2.3kOeの外部磁場を印加して、細線の磁化を単磁区化した後、-580 Oeの外部磁場を印加すると、細線の段差の境界に磁壁が閉じ込めることのできる構造となっている。細線中に磁壁を導入した状態で、電流密度1.3×10^<12>A/m^2,パルス幅8.2μsの単一パルスを印加すると、磁壁は電流と逆方向に移動していることを磁気力顕微鏡(MFM)を用いて観察した。 しかしながら、磁壁移動距離の変化はパルス幅の変化に対して非常に小さいものであった。この原因の1つとして、試料作製過程においてのCo_<54>Cr_9Pt_<37>細線へのダメージ、すなわち構造欠陥による磁壁移動の妨げが考えられる。今後研究を進めるにあたり、細線中のラフネスを低減するような加エプロセスが必要になってくると考えられる。
|