近年の"ゲリラ豪雨"に代表されるように都市部における豪雨災害が頻発しており、河川管理のために高精度な降雨予測情報が益々求められている。本研究は、豪雨予測の精度向上を目標として、未だ降雨予測に利用されていない最新型偏波ドップラーレーダーによる観測情報のデータ同化手法を開発したものである。本年度の成果として、第一に、観測情報の収集に関して、世界で例のない実験用の大型偏波ドップラーレーダーと上空の降水粒子を直接撮影できるビデオゾンデとの同期観測を昨年度に引き続いて実施した。梅雨期の降水事例を対象として、沖縄県恩納村に約3週間滞在し、観測データ(偏波レーダー観測とビデオゾンデ画像)を収集した。さらに、大気モデルへのデータ同化を意識した解析を通して、レーダー情報による降水粒子種類の識別、特に混在状況の推定手法を構築した。第二に、雲物理プロセスを通して、データ同化するために必要となる偏波レーダー観測情報とモデル予報変数の関係性を導いた。この関係性については、降水粒子種類の存在比に関連して両者を結びつけるという従来には存在しない新たなアイデアを示した。以上の成果をベースに、第三の成果として、昨年度開発したデータ同化システムCReSS-LETKFを用いて、偏波ドップラーレーダー情報のデータ同化手法を実際の降雨事例に適用した。大気の気温0度層より上空のおける霰や氷晶などの雲微物理量の推定精度が向上することを明らかにし、これまでよりもリードタイムを長く精度を維持する降雨予測が可能であることを示した。本研究で提案する偏波レーダーで観測される降水粒子の種別に関する情報を同化しようとする試みは世界的に見ても類を見ない独創的な手法であり、研究成果は降雨予測の精度向上を通して大いに社会への還元や貢献が期待できる。
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