植物の防御戦略において、植食者に直接働き食害を抑える直接防御と、植食者の天敵を誘引する揮発性物質を放出する間接防御との間にはトレードオフや制約があると言われてきた。これまでに、資源分配のトレードオフは支持されていない。別の仮説として、直接防御で十分なら天敵を呼ぶ必要がないという「天敵不要仮説」があり、さらに、植食者が多く集まるような植物があれば天敵はそのような植物を選好するという「植食者選好性仮説」も考えられる。しかし、これら二つの仮説を検証する方法論は確立していない。本研究では、物質量に基づく評価ではなく、ある群集内における相対的な植物の被害レベルと天敵の誘引性によってそれぞれ直接・間接防御レベルを評価する新しい方法論を用いてこれらの仮説の検証を試みた。具体的には、植食者ヤナギルリハムシPlagiodera versicoloraとその幼虫の捕食者カメノコテントウAiolocaria hexaspilotからの選択圧を受けたであろう同所的に生息するヤナギ属植物7種の系に注目した。そして、天敵の誘引性と植食者の選好性に正の相関関係が見られ、植食者選好性仮説を支持する結果が得られた。また、ヤナギ各種のヤナギルリハムシに対する直接防御レベルが高いほど天敵の誘引性が低いという関係から天敵不要仮説も支持された。間接防御レベルや植物の直接防御レベルと植物揮発性物質の放出パターンの関係を調べるために、7種ヤナギの健全株及び、食害株におけるヘッドスペース揮発性物質を捕集、分析、解析した結果、7種ヤナギはそれぞれ特異的な組成の揮発性物質を放出しており、全てのヤナギにおいて、健全株に比べて食害株のほうがより多くの種類の成分を放出していた。今後、カメノコテントウ誘引成分を明らかにし、それらの成分に注目した解析を行う。
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