研究概要 |
年度のはじめより、宗教人類学や宗教社会学に関する文献を広く検討し、本研究の学際的な視点の構築をおこなってきた。それに加えて、平成19年9月から平成20年3月にかけて、アメリカ合衆国のハワイ大学人類学部(Department of Anthropology, University of Hawaii)および東西研究センター(East-WestCenter)にて、メラネシアにおけるキリスト教受容と宗教観の変容についての文献・資料の調査収集をおこなった。以上の調査研究の結果として、つぎのことが明らかとなった。 従来の研究における宗教概念に従えば、ギアツの定義にも明確に表れているように、宗教と信仰は同一視されてきた。そのため、キリスト教受容に関する人類学的研究は、信仰という精神世界にのみ焦点をあて、それ以外の事象を不問にしてきた。しかし、ソロモン諸島のニュージョージア島では、改宗から約100年が経過した現在、伝統的な慣行や制度のなかにもキリスト教的な規律や価値観が強く反映されている。たとえば、キリスト教の神と息子に表される父子関係が重要視された結果、それを集団の構成原理に導入する動きが生じ、かつては双系的であった親族集団のあり方が変容しつつある。また、世襲的なチーフの権威が弱体化する一方で、キリスト教の聖職者による発言力が確実に増大している。これらの事例を収集・整理し、従来の研究を踏まえた考察をとおして、キリスト教の影響は、精神世界にとどまるものではなく、当該社会の秩序維持にかかわる問題として捉える必要があることが明らかとなった。 なお、以上の研究成果を学術論文としてまとめ、査読付きの学術雑誌であるPeople and Culture in Oceania,『南方文化』に投稿し、受理された。
|