研究概要 |
本年度はフェルミオン多体系をスペクトル解析・Boltzmann方程式の導出の二つ観点から研究し以下の研究成果を得た。 (1)申請者は鈴木章斗氏と粒子と多体フェルミオンの結合したハミルトニアンの研究を行った。Nelsonモデルのような粒子とボソンが結合した系に対しては作用素論的繰り込み群はBach, Frohlich, Sigalらによってすでに構成されていた。我々はこれと同様の作用素論的繰り込み理論をフェルミオンが散逸を担う系のハミルトニアンに対して構成した。この事によってこのフェルミオン系のハミルトニアンの基底状態の存在を証明すること及び非摂動系の固有値がレゾナンスに変異する事を証明することができる。 (2)申請者はThomas Chen氏と有限温度の多体Andersonモデルから古典的なBoltzmann方程式を導出する問題にも取り組んだ。Erdos, Yauは一体Andersonモデルで記述されるダイナミクスのある弱結合極限が線形ボルツマン方程式を満たすことを証明していた。我々はこの結果を一般化しC^*-algebra上のある状態を多体Andersonモデルのハミルトニアンで時間発展した状態は、弱結合極限で線形Boltzmann方程式を満足することを証明した。さらにこの極限において状態はquasi-freenessを満たす事を証明した。ただしこの結果において粒子間ポテンシャルはないものと仮定されている。 (3)申請者はChen氏との共同研究で2体間相互作用を含むフェルミオン系から弱結合極限において量子Boltzmann方程式を導く課題にも取り組んだ。我々は初期状態を自由Gibbs状態にとるとき、結合定数による摂動展開の3次までは量子Boltzmann方程式が成り立つことを証明した。また摂動展開のすべての次数において非連結なFeynman図形が多重交換子によってすべて相殺することを証明した。論文は現在用意中である。
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