1.質量分析による糖ペプチド解析法の確立 糖鎖をタンパク質から切り離すことなく、糖ペプチドの状態のまま解析することで、糖鎖構造、ペプチド配列(タンパク質の同定)、糖鎖とタンパク質の結合位置の解析が可能となる。しかし、これまでの糖ペプチドの解析方法ではペプチド配列の決定は比較的容易だったのに対し、糖鎖構造を決定することは不可能であった。私はこれまで網羅的な糖鎖のMs^nスペクトルライブラリーの構築を行ってきた。そこで、糖ペプチドの糖鎖部分のMS^3スペクトルを取得し、糖鎖MS^nスペクトルライブラリーと比較することで糖鎖部分を含めた糖ペプチドの解析が可能となった。これにより、どのタンパク質の、どの部分に、どのような糖鎖が結合しているかを解析することが可能となり、疾患により糖鎖変化を起こしているタンパク質の同定への応用が可能となった。 2.糖ペプチドの選択的かつ高分離能な分離法の確立 糖ベプチドを調整するには、まずタンパク質をプロテアーゼによるペプチド断片化を行った後に、大量のペプチド混合物の中から糖ペプチドを精製する必要がある。これまでの精製法では、糖ペプチドの選択的な精製は可能であったが、糖ペプチド間の分離、特に異性体糖ペプチド(同じペプチド配列に異性体糖鎖が結合した分子)の分離は極めて困難であり、糖ペプチドの糖鎖部分の構造解析をより複雑化していた。そこで、私は両性イオン型親水性クロマトグラフィー(ZIC-HILIC)を糖ペプチドの分離に応用することで、異性体糖ペプチドをも含めた選択的かつ高分離能な糖ペプチドの分離が可能であることを見出した。 以上の結果により、これまでの血清糖鎖の解析に加え、血清糖ペプチドの網羅的解析の基盤技術を確立した。今後、疾患により変化する糖鎖及びそのキャリアータンパク質の同定を網羅的に行っていく予定である。
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