研究概要 |
植物は光環境変化に適応する際、葉緑体チラコイド膜の集光アンテナタンパク質(LHCH)を光化学系(PS)IIからPSIへ再分配している(ステート遷移)と考えられているがその詳細は未だ明らかではない。本年度はこれまでに行ってきたPSI超複合体(PSIにLHCIIが結合)とPSII超複合体(PSIIにLHCIIが結合)のステート遷移によるタンパク質複合体構造変化の解析について、以下のようにまとめた。 1)前年度は野生型のチラコイド膜をトライデシルマルトシドで可溶化し、ショ糖密度勾配遠心によってPSI超複合体を精製を行ったが、今年度は3種類の変異体(PSI-less,PSII-less,シトクロムb6f-less)を用いて、PSI超複合体の精製と解析を行った。その結果、LHCIIがシトクロムb6f複合体とFNRタンパク質をPSIに結合させるのに必須であることが示唆された。このようなタンパク質超複合体は光合成系サイクリック電子伝達に関与していると考えられている。この新たに精製されたタンパク質超複合体については、原著論文として投稿予定である。 2)前年度まで行っていたPSII超複合体の精製・解析をまとめ、更にPSII超複合体の構造変化をタンパク質粒子として電子顕微鏡で捉えることに成功した。その成果はThe Plant Cellに受理・掲載された。 3)前年度から開始した蛍光寿命イメージング共焦点顕微鏡を用いたステート遷移の生体リアルタイムイメージング解析をまとめた。まず、顕微鏡上でのステート遷移の誘導法(467/720nm光照射による誘導)を確立し、観察条件と蛍光寿命解析条件(時間相関単一光子計測法)の検討を行った。その結果、LHCIIがPSIIから外れていく様子をクロロフィル蛍光寿命の時空間的変化として捉えることに成功した。生きた細胞でのステート遷移の時空間的変化を観察したのはこれが初めてであり、これについては原著論文として投稿予定である。 本研究プロジェクトにより、これまで直接明らかではなかった、「ステート遷移によるLHCIIのPSIIからPSIへの移動」を生化学的に解明し、更にリアルタイム生体イメージングによっても明らかとなった。そのようなチラコイド膜内のタンパク質の移動はステート遷移以外の生体現象に関わっていると考えられ、チラコイド膜構造とそれらタンパク質の制御との関係を明らかにする必要がある。
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