研究概要 |
眼球運動時の時空間統合処理特性を知る事は申請課題を遂行する上で重要である。前年度にサッカード時の時間圧縮現象(Morrone, et. al., 2005)と同様の時間間隔の過小評価が、刺激の見え(visibility)の低下によっても生じる事を発見した。今年度は、この時間間隔の過小評価現象に刺激の過渡的な応答成分が特に大きく関わる事を空間周波数成分の時間特性の違いを利用し明らかにした。これらの結果は短い時間間隔が時間差検出メカニズムによって符号化される事を示唆している。つまり今回の時間圧縮現象が神経系の時間変調によって生じるのではなく、符号化エラーによる現象であると考えられる。この仮説の妥当性を検証するために、同時性判断課題を行ったところ、二つの刺激が同時と判断される時間幅が、過小評価現象が生じる実験事態によって広がる事が明らかとなった。我々が知覚する世界は時々刻々と動的に変化している。我々がどのように時間情報を処理しているのかを知る事は神経科学的に重要である。今年度の発見はサッカード時の時間圧縮現象の生起メカニズムの一つとして時間差検出メカニズムが存在する事を示唆するのみならず、脳内でどのように時間情報が表現されているのかという問いについて、時間的に近い事象を分離するセンサの存在という新しい考えを提供するものである。 さらに、追従眼球運動によって、色の時間分解能が向上する現象を発見した。これは色の時間分解能のような初期的段階で行われていると考えられる情報処理にまで眼球運動の影響を受けることを示したものであり、眼球運動による画像のブレを抑制するメカニズムの一つであると考えられる。
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