重い原子核同士の反応では、反応する原子核間のポテンシャルエネルギー及び原子核間の相対運動から原子核の内部運動へのエネルギー散逸の正しい評価が重要である。これまでは、相対距離や質量非対称度などの自由度のみをあらわに扱う巨視的な模型で、これらの物理量の考察がなされてきたが、この評価には未だに不定性が存在する。 今年度は上記の点に着目して、原子核衝突における衝突核間のポテンシャルエネルギーおよびエネルギー散逸を、核子の自由度から出発した微視的な理論で評価するため、時間依存ハートリーフォック理論(TDHF)を用いた。具体的には、TDHFを用いて重イオン核融合反応の時間発展を計算し、その結果を原子核間の相対運動の自由度の時間発展を記述する古典運動方程式に換算することで、様々な球形原子核同士の反応に対してポテンシャルエネルギーと摩擦係数を各原子核間距離において求めた。 衝突エネルギーが高いときに得られたポテンシャルエネルギーは、原子核の密度を基底状態の密度に固定した上で各原子核間距離で系全体のエネルギーを計算する方法により得られたポテンシャルエネルギーに近いものであった。また、衝突エネルギーが低いときに得られたポテンシャル障壁のエネルギーは実験データとほぼ一致し、さらに、得られたポテンシャル障壁のエネルギーは衝突エネルギー依存性を示した。一方で、得られたエネルギー散逸・摩擦パラメータは、評価した様々な系において、その強さ及び相対距離依存性が同様の傾向を示した。
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