本申請研究では、一次元電子系を形成する擬一次元ハロゲン架橋金属錯体(MX錯体)を連結し、ラダー系へと次元拡張する事による新奇物性の探索を最終目的としている。これまでに架橋配位子の異なるbpym系、etab系、phdien系の計3種類のラダー型MX錯体を合成し報告して来た。本年度の研究では、連結鎖間相互作用が最も大きいbpym系に着目し、時間分解発光分光を測定する事で、励起状態における新規電子状態の探索を試みた。その結果、従来の一本鎖系では見られない新規な素励起子の観測に成功した。MX錯体はPt^<II>、Pt^<IV>の混合原子価状態を形成するが、これを連結しラダー系へと拡張することで、rung方向の価数が等価なin-phase配列と、非等価なout-of-phase配列の二種類の価数配列が生まれる。bpym系におけるout-of-phase配列の時間分解発光分光測定の特徴は、一本鎖系と比較して異常に急進な、発光の高速な立ち上がりである。これは励起状態の高速な冷却を意味しており、現在、連結鎖間での格子振動を介したエネルギー移譲による、冷却チャンネルの増加の結果として解釈している。一方、前者のin-phase配列状態では、一本鎖系と全く違う発光挙動が観測された。第一にダブルピーク構造を持ったスペクトル構造、第二に全エネルギー領域で同期して起こる、ピコ秒領域での発光の増大である。ダブルピーク構造に関しては、2種類の自己束縛励起子が存在するモデルで解釈しているが、時間波形挙動については現在も未解明である。今後、構成要素を変化させた類縁体の測定を行う事で、その詳細に関する知見が得られると考えている。また、新規ラダー系への展開として、水素結合によって二本のMX鎖を連結したラダー型MX錯体の合成にも成功した。その電子状態を調べた結果、連結鎖間距離がbpym系よりも長いにも関わらず、鎖間相関が強い事が示唆された。これは、水素結合という新たな相互作用が系中に加わった結果であると考えられる。
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