本年度は、π共役系有機配位子の自己組織化を利用した白金錯体の一次元集積化に取り組んだ。Ptイオンの一次元集積化はこれまでPt^<II>/Pt^<IV>錯体をはじめ盛んに研究されてきたが、その一次元骨格はもっぱら、配位子の立体的性質や対イオンとジアミン配位子との水素結合を基に設計されてきた。また一次元錯体の諸物性は単位錯体と対イオンの組み合わせに依存するため、骨格構築後に単結晶構造中で精密に制御することは難題であった。一方本研究では、剛直なディスク状ユニットであるトリフェニレン(TP)の一次元カラムを形成しやすい性質に着眼し、これに2対のOH基を配置することで金属配位能を付与した新規配位子を開発した。配位子合成では、ヘテロな骨格置換設計に基づき段階的経路を採用した。カップリング反応によってo-terphenyl骨格を構築した後、OH基の脱保護に続く空気下自動酸化によってTP環骨格を築いた。金属酸化剤を用いない酸化に成功したのは本系のTPに新規な手法である上、脱保護後に金属配位サイトが露出するTP合成に適している。つづいて、2配位サイトをキャップしたPt^<II>イオンを二当量反応させることで、白金二核TP錯体を得た。この錯体はCH_3CN中ではオレンジ色、固体粉末においては深青色を呈するが、これはTPユニットが固体中で何らかの集合形態をとることによるクロミズムを観測したものと考えられる。さらに、偏光顕微鏡観察においては、200℃付近でディスコチック液晶形成と思われるテクスチャを確認し、このTP錯体が液.晶性を有する可能性を示した。液晶中のカラム構造の有無については現在検討中だが、TP本来のカラム形成能を保持している場合には、同時に白金サイトが一次元集積している可能性が高く、金属集積の新しいアプローチを提案できると考えている。
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