研究概要 |
本研究では、海洋生物が環境に対して応答する過程を明らかにすることを目的として、海洋生態系の高次捕食者を対象に、餌環境情報の収集と生物の行動モニタリングを行う.本年度は、今までに得られたデータの解析を進めた. 回遊中のキタゾウアザラシは,採餌行動を連続的に行ったあと,「ドリフト潜水」と呼ばれる特徴的な潜水行動を行うことが知られている.この潜水では,遊泳速度および鉛直速度が極端に遅くなること,その鉛直速度は個体の体脂肪率、つまり個体が持つ浮力によって変化することから,この潜水中は,アザラシがただ「漂流(drift)」していると考えられており,休息および餌消化のための潜水であることが示唆されている.しかしながら,このドリフト潜水中に,実際どのような行動をとっているのかは明らかではなかった.そこで,キタゾウアザラシに装着した地磁気・加速度データロガーによって得られた情報から,キタゾウアザラシの三次元潜水行動を再構築し,休息中の行動モニタリングを行った.この結果,休息潜水では,アザラシがほとんどヒレを動かさず,エネルギーを節約していることが明らかとなった.また,「漂流」しているとされている時には,アザラシが仰向けになって落ち葉のように円を描いて海の中を落ちていくことが明らかとなった. 摂餌潜水が回遊中の「動」であるとすると,このような休息潜水は「静」であると言える.休息行動もあわせて考えることは回遊全体におけるエネルギー収支を考える上で非常に重要である.今後は、海洋環境情報とあわせて解析することによって、環境に対する高次捕食者の応答特性を明らかにする。 以上の成果の一部は、学会にて発表した。また、残りの結果も学術雑誌への投稿を準備中である。
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