研究概要 |
本研究では、海洋生物が環境に対して応答する過程を明らかにすることを目的として、海洋生態系の高次捕食者を対象に、餌環境情報の収集と生物の行動モニタリングを行った.本年度は、今までに得られたデータの解析を進めた. キタゾウアザラシは,摂餌回遊中,一度も陸に上がることなく深い潜水を繰り返している.このため,アザラシがどのように休息するのかは,長い間注目されてきた.潜水深度と潜水速度から得られたデータでは,採餌行動を連続的に行ったあと,「ドリフト潜水」と呼ばれる特徴的な潜水行動を行うことが知られている.この潜水では,150mの深さまでは毎秒1.5mほどの速さで潜降するものの,150m以深になると遊泳速度および鉛直速度が極端に遅くなる.先行研究では,その鉛直速度が個体の体脂肪率,つまり個体が持つ浮力によって変化することから,この潜水中は,アザラシがただ「漂流(drift)」していると考えられており,休息および餌消化のための潜水であることが示唆されている.しかしながら,このドリフト潜水中に,実際どのような行動をとっているのかは明らかではなかった.そこで,キタゾウアザラシに装着した地磁気・加速度データロガーによって得られた情報から,キタゾウアザラシの三次元潜水行動を再構築し,休息中の行動モニタリングを行った.この結果,休息潜水では,アザラシがほとんどヒレを動かさず,エネルギーを節約していることが明らかとなった.これは,他の潜水においてヒレを動かすことにより,水平および鉛直移動速度を上昇させているのと対照的であった.また,再構築した三次元潜水経路,およびアザラシの体軸角度から,「漂流」しているとされている時には,アザラシが仰向けになって落ち葉のように揺れながら,大きく旋回して海の中を落ちていくことが明らかとなった.この成果はBiology Lettersに投稿中である.
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