本研究では、屋久杉、室生寺杉およびクスノキの古木に含まれる宇宙線起源・放射性炭素の濃度を単年輪毎に高精度で測定し、過去2500年間における太陽11年/22年周期の特性の変化を調べ、太陽の数十から数百年スケールの長周期変動のメカニズムを明らかにすることを目的としている。また、それらの太陽の長周期変動が地球の気候に影響するメカニズムについても調査を行っている。本年度は主に起源前4世紀頃に起こった数十年にわたる無黒点期(太陽活動極小期)についての測定を行い、その間における11年/22年周期変動の特性を調べた。測定には、名古屋大が保有する加速器質量分析計を使用した。 測定の結果、紀元前4世紀の太陽活動極小期における太陽11年/22年周期変動は、西暦17世紀に起こった太陽活動極小期であるマウンダー極小期と非常に酷似した性質を持ち、平均的な周期長が現在より約3年長い14年周期であったことが明らかとなった。太陽活動極小期は、その存続時間の違いから、3つの型に分類されており、今回測定を行った紀元前4世紀の太陽活動極小期はマウンダー型に分類されている。本研究の結果は、太陽の長周期変動にともない太陽11年/22年周期の振る舞いが変化するということを示唆するとともに、存続時間が同じタイプの極小期であれば、太陽が似たような振る舞いを持つ可能性を示唆している。今後はシュペーラー型の極小期についての測定を重点的に行っていく。 本年度は、上記の測定に加え、南極氷床に含まれるベリリウム10の濃度測定を開始した。ベリリウム10も放射性炭素と同様に宇宙線によって作られるが、大気による減衰がなく、より明確な太陽のシグナルが検出できる可能性がある。今後は、特に11年変動が弱くなる太陽活動極小期の開始時期についてベリリウムを補助的に用い、太陽変動の履歴をより詳細に調べていく。
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