研究概要 |
心の理論は他者の心を推測する心の機能である.心の理論は社会的知能の基盤を形成すると考えられており,我々は心の理論の「Aの考える「Bの考える「…」」」という再帰性が重要と考える.再帰的推測能力はヒトに特有である.エージェントベースモデル(ABM)により再帰レベルに関して他者の推測が起点の奇数,自分を他者が推測することが起点の偶数で結果に違いが生じ,非対称性が存在することを示した.次に再帰レベルの進化における個体間の関係の影響を検討した.結果,再帰レベルの進化は処理コスト以外にも上記の非対称性による処理内容の違いに制約があることを示唆した. 次に限定合理的な状況での他者の予測を考える.相手の行動や推論の機構がわからないとし,そこから生ずる原初的コミュニケーションの成立に焦点を当てた.互いに相手を観察する時,観察から相手に関する情報を得る.その時,自分の振舞いにより観察者へ自分の情報を示すことも考えられる.このような他者を予測すること・他者に予測させること(他者の操作)が互いに有益ならばコミュニケーションが成立すると考えられる. ゲーム理論の均衡の選択に関する調整問題におけるゲーム前交渉として基礎的な検討をする.各均衡の利得が不均等なゲームを考える.相手との行動の調整に加え,都合のいい均衡を選択させることが重要である.他者の予測と操作によるコミュニケーションには,シグナルと送信者の状態の関係(シグナルの意味)が必要である.進化シミュレーションにより,相互作用が平等に近ければシグナルの意味が獲得されコミュニケーションは機能すること.不平等なほどシグナルの意味はなくなりコミュニケーションは機能せず相手によらなくなることを示した. 具体的な環境に状況付けられたABMで検討した.ここでは他者の予測・操作に加え,環境への行動にも選択圧がある.他者の情報を得る手段と他者が自分を推測するための手がかり(指差し等の社会的行動全般)を同時に象徴するものとして「一般化視線」を考える.進化シミュレーションの結果,一般化視線により相互に自分の行動を示し競合的関係を調整するコミュケーションの創発を示した.
|