現在までに、Otx2蛋白質が視覚経験に依存して視覚野のParvalbumin(PV)陽性細胞に局在することが、臨界期の誘導に重要であることを明らかにしてきた。さらに、生後多くの脳細胞においてOtx2遺伝子が欠損するが、PV陽性細胞では正常なまま保たれるOtx2コンディショナルノックアウトマウスを作成した。すなわち、Otx2蛋白質が細胞外からPV陽性細胞に取り込まれるのであれば、このマウスにおいて視覚野のOtx2蛋白質は欠如することが期待される。予測どおり、コンディショナルマウスにおいてOtx2蛋白質はPV陽性細胞に検出されないことから、視覚経路上の組織に発現したOtx2蛋白質が視覚野のPV陽性細胞に取り込まれることが示唆された。さらに、臨界期に顕著に見られる眼優位可塑性の有無をin vivo単一細胞記録法を用いて解析した。その結果、Otx2蛋白質が視覚野のPV陽性細胞へ局在することが、臨界期の眼優位可塑性に必要であることが明らかになった。これらの結果は、Otx2に対する阻害抗体やsiRNAを視覚野に投与した後に解析した結果と一致する。一連の研究により、細胞非自律的なOtx2蛋白質が視覚野のPV陽性細胞の発達と眼優位可塑性の誘導に必要であることが明らかになった。 今年度の後半は、ハーバード大学に移動し、新しい研究室の立ち上げを行なった。今後は、Otx2蛋白質がどのように移動するのか、Otx2蛋白質の生理学的、細胞生物学的役割とは何か、明らかにしていく。
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