プラスとマイナスのイオンのみからなる塩であるにも係わらず、室温で液体状態の「イオン液体(IL)」が注目を集めている。この液体は特に蒸気圧が無視できるほど小さいため、蒸発しない。本研究ではこのILの中である種の高分子化合物が外部刺激に応答して可逆に溶解性を変化させることに着目して研究を進めている。poly(N-isopropylacrylamide)(PMPAm)は水中で低温相溶・高温相分離のいわゆるLCST型相変化を示すことが有名である。この高分子が典型的なILである1-ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethane sulfone)imide([C_2mim][NTf_2])中でこれとまったく逆のUCST型の相変化を示すことを報告した。この相変化はILのルイス塩基的な相互作用に影響されていると考えられた。 一方、poly(benzyl methaclylate)(PBzMA)がILの中でLCST型の相変化を示すということを見出した。さらにはPBzMAイオンゲルはILの中で低温膨潤・高温収縮の不連続的(一次転移的)な体積変化を起こすことを見出した。また、相変化する温度はILの構造、あるいは高分子構造の設計によって容易に制御可能であった。 さらに、スチレン(St)とメタクリル酸メチル(MMA)のランダム共重合体(P(St-co-MMA))の[C_2mim][NTf_2]溶液の相変化に関して検討した。結論としてP(st-co-MMA)はそれぞれの成分が約半分含まれる共重合体でPBzMAと類似のLCST型の相変化を示した。ただしその相変化はPBzMAと比較して緩慢であった。これは凝集可能なStセグメント間に、ある確率を持って導入されるMMAが分子内、あるいは分子間の凝集を阻害してしまう効果があるためと考えられた。また、PBzMA溶液の動的光散乱測定(DLS)の温度依存性から、本溶液の相分離ダイナミクスを検討したところPBzMAの高温相分離現象はある温度で突然、高分子の凝集が始まることがわかった。これはIL中の高分子の溶媒和のされ方が極めて特殊であるということを示唆する結果と考えられる。
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