本研究は、ステロイド、シグマ受容体作動薬(精神神経薬)による精神神経作用機構に、神経細胞の形態変化及び神経回路再構築が関与するという仮説の検証を目的としたものである。ラット海馬神経初代培養細胞を用いて、代表的な神経ステロイドのプレグネノロンを添加すると、樹状突起伸展が促進された一方で、ストレス応答ホルモンのグルココルチコイドでは伸展作用が阻害された。しかしどのステロイドの効果もプロゲステロン(PROG)で拮抗された。また、シグマ受容体作動薬のSA4503は樹状突起伸展を促進し、その作用はPROGで拮抗された。その分子機構は、微小管関連タンパク質2C(MAP2C)のステロイド結合推測部位(Steroid binding pocket)にステロイド、シグマ受容体作動薬が直接結合してtubulin重合制御することを、結合推測部位を除したMAP2C不活性体を用いた水晶発振子質量分析実験とTubulin重合試験管内再構成実験による力学的解析より見出した。これら効果は、不活性体遺伝子とAcGFP-tubulinを導入した海馬神経細胞樹状突起での光退色後蛍光回復法(FRAP)の画像解析でも同様だった。 また、ステロイド、シグマ受容体作動薬によるMAP2C依存的なActin重合制御を、Actin重合再構成実験とAcGFP-actinを導入した海馬神経細胞スパインでのFRAP解析より見出した。また、MAP2C不活性体を用いた試験管内再構成実験で、MAP2CのSteroid binding pocketを介してActin重合も制御される可能性を新たに見出した。以上の結果から、ステロイドとシグマ受容体作動薬がMAP2CのSteroid-binding pocketに直接結合し、細胞骨格重合を介した後シナプス神経形態の制御をする可能性を見出した。
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