本研究においては火星超高層大気がどのように太陽風中の急激な構造の変化に対して応答するのかを中心に研究を行なった。利用したデータは近年、観測、解析手法が確立されてきている高速中性粒子(ENA)である。このデータはヨーロッパの火星探査機Mars Expressに搭載されたASPERA-3によって取得されたもので、そのデータ利用のため、ASPERA-3のPIチームに3ヶ月滞在したことを付記しておく。ENAを使った火星超高層大気と太陽風との相互作用についての初期解析結果から、火星においては太陽風直下点付近からジェット状にENAが放出されていることが観測されていたが、このジェットが非常に急激に減少するイベントについて私は詳細な解析を行なった。その結果、ジェットが減少するほぼ同時刻に、太陽風プラズマが加熱され、磁場が強くなっていることが判明した。この状況は惑星間空間衝撃波(IPS)が通過したときに観測されるもので、ジェットの減少はこのIPSによって火星超高層大気が収縮することによって起こることを示唆している。つまり、火星超高層大気が太陽風の急激な変動に対して非常に早く応答することが初めて観測によって示された。また、このデータと簡単な応答モデルを比較検討を行なった結果、火星の超高層大気と太陽風との境界が波打っている、もしくは、その境界が太陽風の変動に対して弾性的な応答をしている、という特徴を同定することができた。どちらのメカニズムが起こっているかは今後の検討課題である.
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