経皮的胃電図を対象として、人間工学などの分野で、疾病診断・予防、生体状態の推定、製品のヒューマンインターフェイス評価へ応用するための計測方法・評価指標の開発を目的としている。本年度は、胃電図による生体状態評価向上を目指し、胃電図時系列の統計的性質の検証および、胃腸運動の活性分布の可視化法の開発を主な目標とし、以下の結果を得た。 1.座位・仰臥位時における胃電図・心電図・脈波・脳波の測定を行った。 2.胃電図のカオス性の判定のために、遅れ時間と埋め込み次元を変動させて、リアプノフ指数を求めた。その結果、いずれを変動させても、時系列のカオス性の判定結果は変化しなかった。しかし、遅れ時間を固定して埋め込み次元の次数を大きくすると、最大リアプノフ指数が単調減少する傾向が見られた。このことから、胃電図解析に最大リアプノフ指数を使用する際には、遅れ時間と埋め込み次元を固定して算出する必要があることが示唆された。 3.胃電図による身体状態(座位・仰臥位)の評価のための可視化方法の提案を行った。可視化方法として、非線形性の特徴を示すアトラクタと、アトラクタをベースとした六面体による表示方法を行った。その結果、座位では胃腸の動きは比較的安定し、座位から仰臥位の姿勢変換直後において胃腸運動が活発になっていることが確認された。 4.先行研究より明らかになっている胃の蠕動運動を模擬するVan der Pol方程式に他臓器からの影響を周期信号と白色雑音として付加し、確率共鳴現象をもつ非線形確率過程の確率微分方程式によって、胃電図の数理モデルの記述を行った。実測胃電図時系列と提案モデルより生成した時系列を、統計的指標を用いて比較した結果、提案モデルから生成した時系列の統計的性質が胃電図時系列の統計的性質と類似していることが確認され、提案モデルが実際の生体状態を高精度で模擬していることが確認できた。
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