本研究では、アントラセンの光二量化を利用したDNAの光化学ライゲーションを検討している。これまでにアントラセン-DNAコンジュゲートを合成し、鋳型DNA存在下、光照射によって光二量体が生成することを示した。さらに、アントラセンの置換位置を9位から1位および2位に変えることによって、二量化速度および二量化効率が飛躍的に向上した。そこで、本年度は一塩基変異検出条件の検討、二本鎖構造以外を対象としたライゲーションを行った。 【一塩基変異検出条件の検討】一つのホットスポットを含む抗がん剤代謝酵素チオプリンS-メチルトランスフェラーゼ遺伝子の一部の27塩基を標的DNAとして用いた。これに対して相補的な7塩基と20塩基のコンジュゲートを合成した。コンジュゲートは1位置換体とした。これらコンジュゲートと標的DNA(野生型、変異型)が二本鎖を形成した状態で1分間の光照射を行った。光照射後はHPLCによる分析を行った。標的DNAが野生型である場合は光二量体が生成したが、変異型である場合はほとんど光二量体の生成が見られなかった。この結果より、わずか1分間の光照射で標的DNAが野生型か変異型かを見分けることができ、迅速な遺伝子解析法として応用できる可能性を示した。 【二本鎖以外の構造を鋳型としたライゲーション】化学的ライゲーションは、酵素を用いないため、二本鎖以外の構造をライゲーションの対象とすることができる。そこで、2つの相補的な7塩基のDNAの末端にアントラセンを結合したコンジュゲートを合成し、二本鎖を形成した状態で光照射を行った。光照射後、HPLCによる分析を行った。HPLCおよびMSによる分析の結果、光二量体が生成していることがわかった。同様にして、三本鎖上でのライゲーションも試みた。三本鎖を形成するコンジュゲートを合成し、光照射を行ったところ、光二量体の生成を確認した。
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