本年度は90nm CMOSテクノロジーを用いたウルトラワイドバンド(UWB)送信回路設計を行った。さらにアンテナ伝送利得の改善を行うため、高利得シリコン集積化アンテナの開発を行った。また広帯域アンテナの開発を行い、シリコン集積化アンテナによるワイヤレス信号伝送の研究をさらに進める目的で以下のとおり実施した。 1.90nm CMOSテクノロジーを用いて、UWB送信回路設計を行った。作製した送信器の変調方式としてBi-phase shift keyingを用いた。送信回路面積は78×52μm^2で設計でき、シミュレーションにおいて中心周波数10GHZ、データレート5Gbps、信号振幅400mVの差動のUWB送信信号を生成した。 2.これまでの研究成果より、低抵抗Si基板上における電磁波信号伝送では、Si基板の損失のためアンテナ伝送利得の低下が問題となり、十分な伝送距離が得られなかった。そこで、この問題を解決するために、Si基板の薄膜化、さらに低誘電率基板膜厚の最適化により伝送利得を改善し、損失の少ない高抵抗Si基板と同等の特性が得られた。その結果、目標通信距離である2cmに対して、伝送利得-20dBが得られ、低抵抗基板上における長距離信号伝送が可能であることを示した。 3.上記の結果において、Si基板の薄膜化によりアンテナは狭帯域となり、UWB信号を送信することができなくなる。そこで、多層配線技術により、アンテナのエレメント数を増すことで、マルチバンド特性が得られ、UWB信号が送信可能な広帯域アンテナを開発した。 4.IEEE VLSIシンポジウム、IEEE AP-Sジンポジウムへの投稿。 このようなデータの結果を踏まえ最終年度となる来年度はシリコン集積化アンテナを搭載したUWB送受信回路を用い、シリコン集積化アンテナによるワイヤレス信号伝送の実証を行いたい。
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