本研究は、カイラル対称性の観点から、中間子と原子核が構成する系の構造や性質を明らかにすることを目指し、QCDで発現する自発的対称性の破れの機構について明らかにすることを目的としている。本年度は、まずカイラル模型を用いて、N^*(1535)共鳴状態の原子核媒質中での性質を、カイラル対称性の部分的回復とあわせて理解するための研究を行った。その結果、J-PARC等で可能になると期待されるπ中間子ビームを用いたmissing massの方法で、核中でのN^*の性質及びカイラル対称性の部分的回復の情報を明確に得られる事を明らかにした。本研究は本年度の日本物理学会及び国内外の研究会において発表され、現在論文を執筆中である。 また本年度は、本研究内容に密接に関係するスペイン・バレンシア大学に渡航・滞在し、カイラルユニタリー模型を用い、Vector mesonのradiative decayについてE.Oset教授との共同研究を推し進めた。本研究で得られた成果に関しても、現在論文を執筆中である。 更に、NJL模型を用いて、η中間子とη'(958)中間子とを統一的に扱い、UA(1)量子異常項を通して中間子の性質に影響するカイラル対称性の回復の効果、及びその観測可能性についても研究を行った。その結果、photo inducedの方法を用いることで、その効果を実際に物理的観測量で観測可能であることを示した。本研究成果は、国際学術雑誌Physical Review Cにて本年度出版された。
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