研究概要 |
生後初期の母ザルと子ザルは、身体接触や授乳を通じて極めて密接な関係にある。しかし、子ザルが離乳期を迎える頃になると、母ザルは乳を求める子ザルに対して、咬んだり、威嚇したり、払ったりするなどの拒否行動を示すようになる。つまり、授乳を求める子ザルと、離乳を求める母ザルとの間に、葛藤が生じる。この授乳をめぐる母ザルとの相互交渉において、子ザルは初めて、他個体との激しい利害の対立を経験する。本研究の目的は、離乳期に生じる母ザルとの葛藤に対して、子ザルがどのように対応しているのかを明らかにすることである。 1歳齢前半の子ザルを対象とした調査の結果、子ザルが母ザルの乳首を口にくわえられるかどうかは,その時の母ザルの状況によって異なることが明らかになった。母ザルが採食をしている時に子ザルが乳首をくわえようと試みると、母ザルは多くの場合その試みを拒否した。しかし、母ザルが他個体から毛づくろいを受けている時には、乳首をくわえようと試みる子ザルを拒否することは少なかった。母ザルが他個体から毛づくろいを受けている時は、子ザルがより頻繁に母ザルの乳首をくわえようと試みていたが、母ザルが採食している時、子ザルが乳首をくわえようすることはほとんどなかった。これらの結果は,母ザルが寛容な態度をとりやすい状況と拒否的な態度をとりやすい状況とを子ザルが認知した上で、乳首をくわえるタイミングを自ら調節している可能性を示唆している。 現在、生後初期から子ザルを縦断的に観察したデータを詳細に分析することによって、「母ザルの状況にあわせて,乳首をくわえるタイミングを調節する能力」を子ザルが発達的に獲得する様子が明らかになりつつある。分析結果を学術論文として投稿し、国際学術雑誌での受理を目指す。
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