本申請者のこれまでの研究により、超臨界二酸化炭素(scCO_2)が光不斉反応において有機溶媒よりも優れた反応媒体特性を有する可能性が示されてきた。そこで本年度はscCO_2が光不斉反応に及ぼす新たな知見を得るために、一定温度下、多様な基質ならびに増感剤を用いて本光不斉反応を詳細に検討した。その結果、基質や増感剤によらず常に臨界密度を示す圧力付近において、有機溶媒中では観測されない特異な反応結果が観測された。さらに、紫外可視、蛍光、蛍光寿命測定といった分光学的手法を用いて、アルコール存在下/非存在下における励起状態の増感剤あるいは励起錯体の挙動を観察することによっても、臨界密度を示す圧力付近を境にして大きな挙動の変化が観測された。これにより、scCO_2が有機溶媒とは異なる特異なエントロピー効果を発現できる反応媒体であることが明らかとなった。さらに、エントロピー因子として温度も非常に重要であることから、scCO_2中の光不斉反応における温度効果についても詳細な検討を行った。その結果、いずれの反応条件も完全な超臨界状態を示す、同じ圧力範囲で検討を行ったにもかかわらず、温度を変えると特異な反応結果を示す圧力範囲が全く異なるという結果が得られた。この劇的な結果についても分光学的手法を用いて詳細に検討したところ、各温度における臨界密度を示す圧力付近で大きな挙動の変化が観測された。このことから、scCO_2中では密度変化にアルコールのクラスタリング効果が影響を受け、その効果が反応にも影響を及ぼしていることが明らかとなった。
|